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あたしは小学生の頃から周囲に恐れられていた。
学校自体は親父に無理矢理入学させられたんだが。
「うわ…ゆうまが来てるよ…」
怯んだ目をしたガキ共が、ただのクズにしか見えなかった。
親父は随分と有名なヤクザらしい。
校長さえもビビってやがる。
そんな父親の娘のあたしに、恐怖の視線を向ける奴等が多すぎた。
「あーあ…だりぃな…サボるか」
呟きながら屋上を目指す。
先公共に目ェ付けられてることくらい知ってる。
でも奴等は何も出来ねぇただのクズ。
あたしを横目で見るくらいしかしなかった。
「おい、オレ達の場所で何やってんだお前」
屋上に着いた途端、待ち構えるように目の前に立つ男。
小学生にしちゃ体格がいい、ガキ大将気取りな子供だった。
「はぁ?いつからテメェらのモンになったんだ。そこ退けよ」
「てめ、女のクセにナマイキなんだよ!」
軽く鼻で笑っただけなのに、頭にキてやがる。
取り巻きの連中があたしに近寄ってきた。
多分コイツ等、あたしの事何も知らねぇな?
「かかって来いよ。テメェら全員相手になってやるぜ?」
笑みが零れ、あたしは連中の攻撃を避け続ける。
――どれも単純な動き。
少なくとも毎日親父と一緒に喧嘩してきたあたしにはそう思えた。
スネに蹴り入れたり、顔面思い切り殴ったり、下から潜り込んでアッパーかましたり…。
大人数…とはいえ四~五人程度だが、それでも喧嘩は楽しかった。
「あたしは氷室侑真。テメェらじゃ暇潰しにもならねぇんだよ」
立ち上がっているのはあたしだけ。その状態で、名を名乗った。
殺しはしなかったが、ま、アレぐらいじゃ骨折にもならないだろう。
だが、他人を見下してる気分は、とても心地良い。
「氷室…ゆう、ま…。氷室ってあの…ッ」
数人は気付いたみたいだ。ま、この地域じゃ有名な名字だもんな。
ただのガキ大将気取りだと思ったら、意外と話が通じるみたいだ。
怯えた瞳であたしを見る。『襲わないで』と必死に請う子犬のように。
「気付くの遅ぇよ。ほらほらさっさとお家に帰りな?ここは『あたしの』場所だ」
「わ、わかったから…!おい戻ろうぜお前ら!」
文字通り、逃げるように連中は屋上を去って行った。
そして、いつもの静寂な屋上に戻った。
……つまんねぇ。
ボーッと寝転がりながら、そればかり思っていた。
勉強なんざ適当にやっとけばいい。成績なんてあたしには関係ねぇから。
それに、正直「夜の世界」の方が好きだった。
――真っ昼間の太陽の日差しが、眩しすぎる。
昼休み。あたしはカバンを取りに教室に戻った。
廊下を歩けばざわめく声。それでもあたしを恐れて近付こうとはしない。
そんなクズ共を無視して、自分のカバンを取って、教室を去る。
止めるヤツは…誰もいなかった。
「…暇」
街の中でぽつりと呟く。
どうせならもうちょっと昼寝しときゃよかった。
そう思いつつ、近くにあったコンビニの中へ入った。
昼間だから人が全く、というより店員しかいなかった。
その店員もレジの奥へ姿を消す。その隙を逃すわけなかった。
防犯カメラを気にしながら、菓子とシャーペンをカバンの中へ詰め込む。
「万引き」という犯罪だってことは知ってる。けど、楽しかった。
見つかるか見つからないかのスリル感。かんたんにモノが手に入る便利さ。
親父がいないこの時間は、万引きで退屈をしのいでいた。
そして、何事もなかったように店を出る。
ブラブラ歩いていたら、もう夕方になってた。
マズイ。早く帰らねぇと親父に殴られる。
あたしは早足で自宅へ向かっていった。
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あとがき。
侑真が10歳ぐらいの事を書きました。背後です。
今回は氷室という名の知名度、学校の不満さからの万引き…と言った内容です。
万引きについてですが、背後は過去に似たような行為をしたことがありました。
母の財布の中身を少しだけ盗む。それだけでも「いけない」事ですよね。
何故したか。…それは侑真と同じで「退屈さ」を感じていたからなんです。
彼女とはまた別の意味でしたが、どちらにしろ「悪い事」には理由があるんです。
…と、実話はここまでにしておいて。
ここから少しずつ、変化が起こります。
恢斗君の登場から、侑真自身の心境などなど。
まだまだ続きますので、生暖かい目で見てやってください。
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